慌てて握った右手には





僕一流の読書法





進学し、新しい学年が始まり、
桜が花びらから新芽に変わる頃。


柳生は桜の木を視界に入れながら
お気に入りの図書館への道を歩いていた。



図書館へは電車に乗り、徒歩で行く。
洋書など、自分の好みの本が多いからである。
自習用のスペースが広く、学生も結構多い。
いわば、勉強にももってこいの図書館だった。










 また来ている。





図書館の大きな窓をふと覘いた。


いつも自分が使っているテーブル。
良かった。大学生にもう一人・・席は空いている。


もう一人に目が動く。


その相手は最近、
自分がよく座っている席があるテーブルに座っている
図書館の近場にあるであろう中学の制服を身にまとった女の子だった。


彼女も最近自分と同じテーブルが気に入ったのだろうか、
柳生が始めて目にしたときからほとんど同じテーブルに座っている。


あのテーブルからは綺麗な木々が見えるのだ。






 今日、声をかけてみようか



ふと頭の中に言葉が駆け抜ける。












 何を考えているのだ


自分に自問をする。
当然、答えなど出てくることはないとわかっているのに。


あの子を見てから、本を読んでいるときでも、
何故か気にしてしまう。







冷静を取り戻そうと頭の中を整理しながら
柳生は図書館に足を踏み入れた。
自動ドアが静かな音を立てて図書館へ招き入れる。
柳生は足音も立てずに洋書の本棚へ足を進めた。





本棚には英語で書かれた本が数えられないほど閉まってあった。
柳生はゆっくりと本棚を眺めていく。



一瞬、柳生の目が留まった。
その目の先には『星のおうじさま』の本が。






 この本を最後に読んだのは何時だろうか




それ気づいたときには柳生は星のおうじさまを手にしていた。
そして、いつも使っているテーブルへ足は進んでいく。











柳生がいつも席に座ると、
一瞬、女の子の目線が柳生を捉える。
そして、申し訳なさそうに目線を本に戻した。
女の子はおとぎ話の洋書をゆっくりと読んでいるようだった。

テーブルには先ほどまでいた大学生らしき人も見えない。



「・・・」



柳生はイスの脇に鞄を置いた。
そして星の王子様を開いた。


いつもと変わらぬ、静かなときが流れていく。






30分ほど経ったときであろうか、
女の子が本にしおりを挟んで本を閉じた。






 今日はいつもより早めですね





知らぬ間に柳生は思っていた。

まだ、夕暮れ前だ。
彼女が帰るのは夕暮れ時。
今日は何か、用でもあるのか。

更に、こんなことまで思っている自分にやっと気づく。






 さっきといい、何をやっているんだ



柳生は一瞬反応した自分に叱りを入れた。





「あ、あの・・・」




帰るかと思った女の子は口を開いた。
このテーブルには柳生と彼女だけ。


可愛らしい声がテーブルの周りを包み込む。




「なんでしょう?」



柳生は少し驚きながら口を開いた。
少しずつ自分の心臓の音が速くなっていく。



「その本・・・」



恐る恐る女の子は星のおうじさまを見つめる。



「この本が、どうかされましたか?」


柳生は話しながら入っていたしおりを挟み、
本を閉じた。














「どこに・・・ありましたか?」




女の子は少し慌てながら柳生に質問をした。







「洋書の本棚にありましたが」


柳生の心臓の音は加速していく。






「そうですか・・。もしかして、高い場所にありましたか?」


「高い場所・・?」



柳生は少し過去を振りかっていった。

確かに段で言うと上から二段目。
自分でも少し腕を上に上げないと取れなかった。




「はい・・少し高い場所にありましたよ」



「あぁ、やっぱり・・」



女の子は少ししょんぼりした表情を見せた。




「もしや・・この本を貴女は読みたかったのですか?」




柳生は星のおうじさまをまた開いた。





「・・・すいません。そのもしやです・・」



女の子は下を向いた。
少しその姿に柳生は頬を赤めた。











「・・・」


女の子の沈黙はしばらく続いた。
柳生も女の子を目から離さない。




そして柳生は少し微笑みながら
星のおうじさまから自分の挟んだしおりを抜いた。




「え・・・?」




「どうぞ。この本は貴女が借りてください」



「そ、そんなっ!申し訳ないです。私のわがままからなのに!」


女の子は一気に顔を赤めながら遠慮した。



「いいのですよ。借りてください」


柳生は女の子に本を差し出す。



「私と同じで、洋書が好きみたいなので。どうぞ」


「そ、そんなぁ・・・でもっ。それは貴方も同じでは・・?」



「私は構いませんよ。この本はたまたま取ったものですし」



女の子は手を少し動かした。
でも悩む様子は変わらない。





そんな可愛らしい女の子の悩む姿に柳生は目を奪われていた。
自分まで顔が赤くなりそうだ。
そして心臓の音もそれを追うように速くなっていく。











「申し訳ないです・・・そんなこと」


やっと女の子は口を開いた。
これが精一杯の言葉なのだろう。




「遠慮なんて要りませんよ。私には一昨日借りた本もありますし」




柳生は少し赤くなりながらもう一度微笑んだ。




「どうぞ」


もう一度、優しく本を差し伸べる。







「・・・じゃぁ、次に会うときに返しますね」


ありごとうございます、お借りします。
と女の子の小さい白い手に
柳生の持つ本は受け取られていった。







「なので・・お名前を教えてくれませんか?」




赤くなった顔で女の子は柳生に頼み込んだ。




「・・・・あ、あの?」




柳生は思考が一瞬止まった。









「あ、すいません。・・・名前、ですか?」



「はい。是非、覚えたいと思いまして」





女の子は優しく微笑んだ。
柳生の顔は更に赤みを増していく。





「私は といいます。中2です。貴方は・・・?」



「中学3年、柳生比呂士といいます」





「改めて、本ありがとうございました。柳生さん」






にっこりと は微笑む。


柳生も に続いて微笑んだ。




















二人の顔は少し夕日の色に似ていた。





 また、 さんに会えるのか




ふと頭の中に言葉が走る。
この言葉がかき消されることはなかった。










End..




柳生夢。初になりますね・・
こんな夢ですいません。
何ヶ月ぶりでしょう。
ホントに申し訳ありませんでした・・・。
よければ、感想をお願いしたいです。
お待ちしております。

神風 霰 06/04/19



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