天下の信長、

下部への愛も忘れることはなし。



天下の心




「信長様っ!!!」


信長は自分の広々とした部屋で酒を口にしていた。


「何用だ。蘭丸」

信長はぎろり、と蘭丸へ視線を移した。

杯に信長の横顔が写る。








「信長様の下に就きたいという者が先程、姿を現しました!」


蘭丸はすぐさま信長の前に膝を曲げた。
正座をし、信長を見上げる。







「…どういたしましょう。」



「よかろう。余は今、気分が良い。
その者を通すが良い」


信長は杯をあおった。


「は。御意」


蘭丸は小さく頭を下げるとすたすたと部屋を出る。






「入るが良い。信長様がお待ちだ」

蘭丸の小さくした声がふすま越しに信長の耳に入る。

信長は瞼を閉じた。







「信長様、失礼いたします。
蘭丸、そして という者を連れてまいりました」


「うむ。入れ」


蘭丸は正座をし、ふすまを開いた。






「お初にお目にかかり光栄でございます。
我名、 と申します」


は部屋を区切るふすまの奥で正座をし、
恭しく美しく頭を下げた。

長いまっすぐの髪がさらり、と の顔を隠す。







「おや、うぬは女か。入れ」

信長は目を細めると部屋に入ることを許した。


「失礼いたします」

はすっ、と音もなく立ち上がると
鈴の音を鳴らすように部屋に入っていった。

の背に掛けた弓の鈴がちりん、ちりんと音を鳴らす。







「膝を曲げるが良い」

「はい」


は細い足を曲げ、信長の前に膝を曲げた。
そして美しい姿勢で正座をする。


信長は舐めるように を上から下へ目を流していった。




長い前髪に少し女としては短い肩甲骨まで伸びる髪。
藍色の膝上丈の着物に背中には銀の弓。

そして紫と藍を混ぜたような人を安らげさせるような瞳。

腕と足は細くて白い。
だが必要な筋肉は付いているように見える。







「うぬは余に何を望む?」

信長は杯を に向けた。





「信長様の天下の統一にございます」

の視線はまっすぐだった。





「我の天下の統一とな…がははははっ!!!」


信長は天井を見ながら大笑いした。







、というたな。」


「戦では何を使ふ?」

信長はぎろり、と を試すような視線を向ける。







「あの稲姫殿と同じ、弓を使います」



は背中に掛けた銀の弓を自分の前に置いた。

銀の弓には金の鈴がついている。
そして両脇には何者も貫きそうな刃がしっかりとついている。

信長は目を細める。
弓を黙って見つめた。



「弓の名は藍心乃弓と名づけました。」






「銀の弓…そして徳川の本多忠勝の娘と同じ武器とな。



…良かろう。」





信長はパンパンっ、と手をたたいた。
そして最後に小さくパン、と手をたたく。


部屋の角のふすまから酒を運ぶ女が現れた。


酒筒はふたつ。
盆には杯が余分に一つ乗っている。






「飲むが良い。余はうぬを気に入った。」

「うぬに杯をやれ」



「はい。」

名も呼ばれたこともないだろう、女は
静かに に杯を両手で差し出した。







「申し訳ありません。」

は信長を恭しい優しい目で見つめた後、
女に同じような目で礼を告げる。



「いただきます。」


杯には少量の酒が入っていた。
は信長へ礼を示す仕草として瞼を静かに閉じると
杯を少しずつ自分の口へ傾ける。


目を見開き、少し頬を染めた女は
そそくさと部屋を後にした。




信長の目が光る。













「…待てよ。ぬし」





信長は俊敏に音もなく立ち上がり の前に立った。
そして程よく筋肉のついた足を片足だけ床につける。








「何故、あんな下の者へあのような目を使ふ?」


信長は細長い指を の顎へつけた。
そして静かに の顔を上に傾ける。





からん…



杯は少量の酒をこぼしながら床に転がった。








「信長…様っ…?」



「余にだけ、その目を使え。」






信長は新しい酒を自ら杯に入れると
くい、と酒をあおった。

そして の唇に自分の口を重ねる。






突然な口付けにびっくりして は一瞬ひるんだ。


その一瞬のひるみを信長は見逃さない。







信長は舌で の口をこじ開けた。
そして口に入っていたまだ飲み込んでいない酒を移す。



こくり、と の細いのどが酒を飲み込む。


「ふぇ・・・・」



は力が抜け、普段は決して出さない弱い声を漏らした。









「…ほぉ、良い声ではないか。」



信長はニヤリ、と黒く美しく微笑んだ。
そして舌を出し、ぺろりと自分の唇を舐める。

は信長の黒い微笑みに見惚れた。








「余の女、濃姫を超えてみよ。『 』。」



「・・・・?」

まだ信長の指は の顎を傾けている。









「余の二人目となる女にしよう」






は目を見開いた。






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