頼む


これだけは




あらまほし



六角中のテニスコートではいつもどおり、
大会や練習試合に向けて、
レギュラーそれぞれのメニューが行われている。


今日も空も快晴で良い天気。
やっと長い梅雨も明けたので、
余計に暑さが増している。

レギュラーたちは汗を流し、
オジィはベンチの横にパラソルを立て、
練習風景を眺めている。



「バネさん! ちゃんはどこにいるか知ってますか?」


剣太郎はひとまず、
休憩に入ったヒカルと春風の傍まで足を運ぶ。



「どぉした?え、 はいないのか?」



春風は少し驚いた顔をして
顔を拭いていたタオルを審判台の階段にかけた。





「うん。練習試合の話をしようかと思ったんだけどね・・・」


剣太郎はコートをぐるりと見渡す。

しかし、 の姿はここにはない。



「それにこの、プリント、
急にオジィから ちゃんに渡すように頼まれちゃって」



ぴらっと剣太郎はさっきもらったらしいプリントを見せる。



少し後ろのベンチでオジィは春風たちに向かってピースをしている。



そのプリントを見て、春風はふと一瞬考える。


は中2で男子テニス部マネージャーと
地区のボランティア活動の実行委員にも入っている。
春風も実行委員だが、 とは係りが違っていて、
そのため、準備などは別々だ。

そして人柄も良いせいか、
自分ができそうなことはできるだけやってしまう。
長所であり、たまに無理をしてしまう困りどころある、
頼りがいのある後輩であり、マネージャーである。


密かに を想う者も少なくない。
自分がそのひとりでもあるのだから。






「その練習試合の話は明日でも大丈夫なのか?」



微妙に一拍置いて春風は言った。

そして春風は少し遠くに見える時計塔を見上げる。
そろそろ6時30分。
の委員会も終わっているだろう。




「別に、明日ぐらいまでなら平気だよ」


剣太郎は少し考えてから春風に話す。





「あ。剣太郎、お前、
まだダビデと今日の分のゲームやってないだろ」



春風は審判台の階段からさっきまでかけていたタオルと引っ張る。




「へっ?・・・うん、よくわかったね、バネさん」



剣太郎も驚いた様子だった。




「ちょっと、すぃっと水道に行ってきます」


「ぶっ」


ダビデも言われてから思い出したように
次の剣太郎とのゲームに向けて
水分補給をしに、水道へ足を向ける。


瞬時に気づいた春風はヒカルへの突っ込みを忘れない。
春風の長い足がヒカルの頭に直撃する。





「オレ、そろそろ片付けだし、
を呼ぶついでにプリント、渡してきてやるよ」



「えっ、バネさっ・・」





すっ



春風は剣太郎の手に握られていたプリントを取る。


そして春風は少し足を速め、校舎のほうへ走っていった。




「バネさん、嬉しそうにラン、ran、走る」


剣太郎は春風の小さくなっていく後姿を見て、
小さく笑った。

確かに春風の後姿は嬉しそうだった。











部活前に春風と剣太郎に から送られてきたメールには

今日はパソコン室で
ポスターやスケジュールなどの印刷をやっている

という内容だった気がする。



春風は若干急いで昇降口から靴を履き替え、
パソコン室へ向かう。






パソコン室は機会への配慮のためか、
エアコンが涼しく室内を冷やしている。

エアコンの独特の静かな音の中、
パソコン室の奥の真ん中辺りの席に
は座っていた。

画面はまだ、スイッチが入っている。

少し暗くなった室内に
画面の光で の姿がほんのり明るくなっている。




「・・・・」



春風は良い考えでも浮かんだのか、
音を立てないように
忍び足でパソコン室に入っていく。



春風の頭の中には
驚いて、少し困ったような、でも楽しそうな
の可愛らしい顔が浮かんでいる。


は気づいていないようだった。
春風は のすぐ後ろまで背を低くして近づいていく。




少し薄暗い中、
春風は を覗き込むように見た。





は最近の疲れからか、
ちょうど、うまくバランスをとり、
眠りの世界に入っていた。

すやすやと深く眠っているようだった。
可愛らしい寝顔を春風に向けている。


「・・・っ」

春風はさっと手で口を隠した。
あまりの可愛さに春風は息を呑んだ。
自分の頬がみるみる赤く染まっていくのがわかる。


「なんで、こんなに可愛いんだよっ・・・」




春風は小声で呟く。

まだ はすやすやと春風に気づかず、
眠りの国へ旅を続けている。





きぃ




春風は慎重に の隣のイスに腰を下ろす。
すぐ隣には の眠った顔。


春風はぎりぎりまで の寝顔に近づき、
肘を突いて頭を支えた。

数十センチしか と春風の顔は離れていない。


春風は自分のやったことに恥ずかしがりながらも、
をじっと見つめる。







「・・・なんでだよ・・・・」


春風は を見つめ続ける。
そして春風の視線は少しずつ の唇に吸い寄せられていく。

きれいな可愛らしいピンク色をした の唇は
見るだけもやわらかそうだ。












キスをしたい





春風は気づかずに頭の中に言葉を浮かべる。

更に春風は赤く染まっていく。










春風は一回顔を両手で組んだ腕に顔をうずめた。




「目、覚ますなよ・・・・」


ぼそっと春風は呟くと
自分の顔を の顔へ近づけていった。










ふたりの顔の距離は残り数センチ。


が驚いて目を覚ますのも、数秒後。









End.








初、バネさん夢になりますか。
古典の宿題をやっている途中にこのネタが浮かびました。
なぜ、古典で? そぉ思うでしょう。
題名の『あらまほし』
これは古典で、
『そうありたい、あってほしい』という意味、らしいです。

「目を覚まさないでほしい」

そぉいう願いをバネさん夢にしてみました。
最近、ぽんぽんとネタが浮かびます(笑)

神風 霰 06/07/26 Wed



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